大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和34年(ラ)29号 決定

抗告人 長井早一 外一名

相手方 越智伊平

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取り消した上、相当の裁判をせられたい、というに在り、その理由は、

申立外今治信用金庫は、昭和三三年四月二二日松山地方裁判所今治支部に別紙目録記載の物件その他に対する抵当権実行の為の競売の申立をし、同事件は同庁同年(ケ)第二三号宅地建物競売事件として受理せられたが、同裁判所は、同事件につき昭和三四年二月二一日、次の命令、即ち、執行吏岡田武重は別紙目録記載の不動産に対する同記載の各占有者の占有を解いて競落人越智伊平(相手方)にこれを引き渡せ、との不動産引渡命令(同庁同年(ヲ)第八号不動産引渡事件)をなした。ところで、

(イ)  右不動産中、(五)の建物は、もと長井竹治の所有であつたが、同人は昭和三二年六月死亡しているに拘わらず、その適切な補正手続なくして右競売事件の競売手続は進行せられたので、右手続は無効である。

(ロ)  右不動産中、(六)の建物の内、建坪一三坪の部分は借地上に在るに拘わらず、これを具体的に示すことなくして右競売手続を結了したのは失当である。右部分は右競売事件の競売物件に非らざる申立外越智四郎の所有地上に在る、

というに在る。

よつて案ずるに、抗告人ら主張の本件競売事件に関し抗告人ら主張の本件引渡命令のなされたことは、本件各記録に徴し明らかである。ところで、本件引渡命令は、民事訴訟法第六八七条の規定の類推適用によるものであるが、かかる引渡命令に対する不服申立としての抗告においては、その理由としては、当該引渡命令手続(引渡命令自体を含む。)における違法事由のみ主張することが許され、その前の競売手続における違法事由は、これを主張することは許されないものと解するのが相当である。かく解すべき理由につき考えるに、競売法又は民事訴訟法による不動産競売手続は、不動産の換価による金銭債権の満足を目的とし、従つてその終了時期は、競落代金の支払完了時ないしはその配当完了時であるというべきである。これに対し右引渡命令手続は、競落人をして競落物件の占有を取得せしめることを目的としていること及び右引渡命令は、競落代金支払完了後になされるべきことは、前記規定の趣旨から明らかであるから、右引渡命令手続は、右不動産競売手続とは、その目的及び性質を異にする別個のものであるというべきである。そして、右不動産競売手続を違法又は不当ならしめる事由の存する場合には、競売法又は民事訴訟法は、その各場合に応じそれぞれ不服申立の方法を定めているのであるから、右引渡命令に対する不服の理由を前記のように制限したからといつて、利害関係人に関係人に対し救済の途を封ずることにはならないのみならず、段階的に進行する民事の手続においては、これに関する不服の事由は、各段階毎にこれを区別し制限することは、現行民事手続法を貫く一つの原則である。以上述べたことから前記解釈は是認せられるであろう。

ところで、抗告人ら主張の本件抗告理由は、いずれも本件引渡命令に対し主張することの許されるべき前記の事由に該当しないことは、その主張自体から明らかである。

なお、原裁判には他に違法の点は認められない。

よつて、本件各抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条を準用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 山崎寅之助 安芸修 荻田健治郎)

目録

(一) 今治市今治村字矢熊甲三百三十一番地の三十

一、宅地 六坪弐合五勺

今治市今治村字番小路甲三百四十二番地の十六

一、宅地 参拾四坪九合五勺

右占有者 門田照子

(二) 今治市今治村字番小路甲三百四十二番地の十六

同所同字同番地の十七

家屋番号 今治村壱弐五四番

一、木造瓦葺弐階建 居宅 一棟

建坪 拾七坪参合 外弐階 参坪

付属第一号

一、木造瓦葺平家建 湯殿 壱棟

建坪 壱坪五合

右建物の内

居宅 一階 建坪 拾七坪参合

右占有者 青野一弘

(三) 今治市今治村字番小路甲三百四十二番地の十六

同所同字同番地の十七

家屋番号 今治村壱弐五四番

一、本造瓦葺弐階建 居宅 壱棟

建坪 拾七坪参合 外弐階 参坪

付属第一号

一、木造瓦葺平家建 湯殿 壱棟

建坪 壱坪五合

右の内

居宅建物の弐階 建坪 参坪

右占有者 野島スマ子

(四) 今治市今治村字番小路甲三百四十二番地の十六

同所同字同番地の十七

家屋番号 今治村壱弐五四番

一、木造瓦葺弐階建 居宅 一棟

建坪 拾七坪参合 外弐階 参坪

付属第一号

一、木造瓦葺平屋建 湯殿 一棟

建坪 壱坪五合

右の内

湯殿建物 壱棟 建坪壱坪五合

右占有者 門田照子

(五) 今治市今治村字番小路甲三百四十二番地の十七

家屋番号 今治村 壱弐五四番の参

一、木造瓦葺 平家建 居宅 一棟

建坪 拾坪

右占有者 安井アキ

(六) 今治市今治村字番小路甲三百四十二番地の十七

家屋番号 今治村 壱弐五参番

一、木造セメント瓦葺平家建 居宅 壱棟

建坪 拾九坪二合五勺

右占有者 長井早一

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例